ONE PIECE エッグヘッド編のOPが良いので、勝手に称賛したい。

2024-12-10 Richard Falcema (Ricky)

黒井心さん主催の『ここ一年で心に残ったベストエンタメコンテンツを全力でオススメする Advent Calendar 2024』の10日目担当です。9日目の飯田二歩さんからバトンタッチです。

年始から衝撃を受けた。超ワクワクした。
それがONE PIECEのオープニングである。

すごい!なんだこれは!すごい!
これ、初めて放送された時みんな腰抜かしたでしょ。僕もそう。

書きたいことがたくさんあるので、要点ごとに見ていこう。ワンピースを見たことのない皆さんにも伝わるようになるべく映像表現に注目して話をしていく。
※筆者は、趣味と仕事で映像を作っています。アニメは、撮影の工程がチョットワカル感じですが、原画・動画周りの知識はそこまでないので用語が間違ってたらごめんなさい!

線画

手描きの柔らかさを残した味のある輪郭線である。特徴としては、1ストロークのなかで線幅が細かく変わること。線自体に濃淡があるといったような感じである。
この線のおかげで、輪郭が柔らかい感じになり、全体的に淡い色を使った塗りと親和性が増している。パキっとしすぎない、キャラを背景と分離せずに、全体で一枚の絵として構成するような描き方だと思った。とても良い。

配色

いわゆるアニメ塗りは、1つの色に対して、ハイライトとシャドウを加えて、明暗をつけて塗り分けるものが多いが、この作品の場合は、極力、ハイライト、シャドウを加えず、単色の塗りで構成されている。特にキャラクター。肌、髪の毛、服も基本的に光沢があるものを除いてフラットな仕上がりになっている。
また、全体を通してそれぞれのカットに印象的な色が配置されており、暗い部分も、完全な黒ではなく、やや明るめで彩度を持った色になっている。それにより、カットが切り替わる時の色の変化が多様で見ていて楽しい。グラデーション的な階調をほとんど使わずに単色の塗り分けだけで、ここまで色彩豊かに見えるのか、とさえ思う。0:39~の黄猿、クマのカットなどは、少ない階調の塗り分けにも関わらず光や火花が明確に光って見える。明暗の配色が素晴らしい。

撮影

初めて見たとき、上記2点と合わせて、「このOP、近年の過度な撮影処理へのアンチテーゼか!???(褒め)」とさえ思った。もちろん撮影はしているだろうが、極端にコントラストをいじったり、ブラーや収差、被写界深度を加えるような、いわゆる光学的なエフェクトを上乗せして階調を豊かにするような作業は、ほとんどしていない(グロー使ってる部分はちょっとある)ように見受けられる。背景もキャラクターもほぼ狙った色で最初から設計している。

つまり、この映像は彩色の段階でほぼ完成しているのではないかと思われる。そうだとしたら、これはすごい。エフェクトで加工することを前提とせず、人が意図して描いて、動かして、塗ったものを、この作品の完成形として目指して作っていたならば、アニメーションの本質的な部分をちゃんと大事にしている。

とはいえ、撮影がゼロかというとそうではない。例えば、遮蔽による影(0:33)、明るさの変化(0:46)、地面の切り替えアニメーション(0:56)、空のグラデ(0:57)など、主張は控えめだが確実に画面を補強する丁寧な撮影が行われている。目立たないが、 むしろこの作品のルックを最大限に引き出す的確な撮影が出来てるからこそ目立たないように感じるのかもしれない。

先に言及したような光学的なエフェクトを加えることが悪ではない。画面に奥行きが生まれるし、絵がリッチになる。ただアニメーションとは「描いて、動かす」というところが原点であるから、エフェクトがすごい!というのは少々アニメから遠ざかっているような…と思うことがたまにあった。昨今は「エフェクトを加えたリッチな絵」というものが一括りに「作画が良い」と持て囃されてきた風潮もあり、実際視聴者が感じている「良さ」は作画(原画・動画)以上に、エフェクトによってもたらされている部分が大きいのではないだろうか。

という事情もあって、殊更この作品は、ちゃんと「アニメ」に力を入れてきたなという気持ちになった。実際そういう思いがあって、このルックに仕上げたのかは分からないが、制作スタッフの熱意を感じるのは確かだ。超好き。

カットつなぎ

いや、参りました。 すべてが繋がっている。 僕はモーショングラフィックス畑の人間なので、前のカットと次のカットが、動きやレイアウトの共通点を持って繋がっていく展開が大好きなのだが、この作品はそれをアニメでやっている。いくつか見ていこう!

①0:14 ~ のシーン

ロゴの位置が固定で、そのデザインが変わりながら画も変わっていくというシーン。ロゴお披露目系のプロモーション映像やブランディング映像などではよくある手法だが、これをアニメOPでやるのがおしゃれ。ワンピースでは、新しい島に到着したときに、たいてい何グループかに分かれて(勝手に突っ走って迷子になるやつもいるw)探索をしていく。そのストーリー展開が種々のロゴとして表現されていて良い。 引用元: YouTube

②0:29 ~ 0:34のシーン

共通の斜めアングルで構成された一連のカット。
いや、何食べたらこれ思いつくんですかねー。悪魔の実かな。
ルフィのゴーグルから、コビーたちが走っているシーンまで徹底した斜めレイアウトになっている。
特に、一瞬しか見えないが、ゴーグルに寄り切った後にルフィが落ちていくカット(0:30)がすごい。
前のカットから続く虹色の空間がカメラの背後(2D画面的には左上方向に)に捌けつつ、ルフィが落下していくのを背中側から捉えるような構図になっている。画面上をルフィが斜めに落ちていくことで、単に垂直または水平に移動するよりも、躍動感がプラスされている。
また、虹色の空間をトランジションと捉えたときに、日の丸構図で均等に捌けていくよりも空中に投げ出されたような不安定感が追加されて、良い働きをしている。このルフィが空中を落ちて遠ざかっていくカットが、次のカットを際立たせる役割も持っている。
そしてルフィがドーンっと出てきて、楽曲クレジットが出る。完璧すぎる。やっぱり16:9だからできる構図だよね。 引用元: YouTube

③1:00 ~ 1:07のシーン

この作品の激アツポイントです。間違いなく。 ルフィ、キッド、ロー、ゾロがそれぞれの敵と相まみえるカットが連続的に繋がっていく。しかも同じ構図で。 

ワンピースでは、主要なメンバーがそれぞれ同時並行的に異なる場所で別の敵と戦うようなストーリー展開が多いのだが、まさにそれを端的に映像で表現している。彼らはそれぞれ自分のフィールドでバラバラの戦いを繰り広げているが物語的には、すべて繋がっているというような内容が映像的にも意味的にも詰まっている。
ついでに歌詞に耳を傾けてみてほしい。「バラバラの文脈が意思を持ち繋がれば」(きただにひろし あーーっす!より引用)という歌詞とぴったりの内容である。ここに持ってくるシーンとしては120点ではないだろうか。 引用元: YouTube

音ハメと緩急

さて、ここまで色んな好きポイントを語ってきたが、さらにマニアックな話をしていこう。この作品は全体を通して、徹底的な音ハメと、それを活かした緩急のつけかたをしている。

①0:07のルフィの口アップ

このカットを入れてきたのには、本当に脱帽した。
0:03あたりから音楽のビートに合わせて、カメラが加速しながら船に近づいて行く。普通であれば、そのまま寄り続けて、ルフィのアップでタイトルロゴへつなぐかもしれないが、あえてカットを割ってルフィの口アップを挟むことで、タイトルロゴへのワンクッションにしている。しかも単に口がアップになるだけはなく、ちょっと開くように笑って、閉じ始めるくらいの動きまで写って、切り替わる。ここがすごい!
つまり、カメラの運動エネルギー(速度)をルフィの口の動きと、カット割りによる急激な位置変化に吸収させつつ、音楽が次の展開へ行くぞ(タイトルが出るぞ~)という心の準備をさせる役割がある。このカットがなかった場合、唐突にタイトルロゴがでてしまう。
このような「動きを画面内のオブジェクトに吸収させて次の動きにつなげる表現」は、モーショングラフィックスではよく見られるが、アニメOPのしかも原画・動画に近い領域の表現でやっているのはあまり見ない気がする。拍手。 引用元: YouTube カメラの運動エネルギーがルフィの開口度、タイトルロゴの拡大率と順に移っていく模式図

②0:48のS-スネークがこっちを見るカットから星型のなにかが落ちるまで

ここの一連のカットも、前述の話に近い。Sスネークがこっちを見る瞬間の「パッ」っという速度感を、星が落下するカットで吸収するような形で、小気味よく次のカットへ切り替える流れになっている。ちなみに0:47のシャカ(ヘルメットを被ったキャラ)がこちらをゆっくりと振り向くカットと呼応してるので、そこも構成として綺麗。

③0:52のルフィーが歩いてるカット、寄り→引き

この2カットが切り替わる直前、ルフィの動きが一瞬止まるのにお気づきだろうか。衣装が色々変わった後、ルフィの動きが止まり、また動き始めて一拍置いたタイミングで引きのカットに変わる。そしてこれが完璧に音ハメされている。   音楽的には落ち着いた展開になり、それまでの盛り上がりがストンと落ちるような印象を受ける。ルフィの動きが止まって、ちょっとして動き始めるという一連の動きが、視覚的にも一瞬の溜めをつくり、そのストンという感じを引き立てている。

クレジットのフォント

さて、ちょっと視点を変えてデザイナーらしくクレジットのフォントを見ていこう。なんだこれ!まず一種類じゃない。

あおかね(フォントワークス)

あおかね引用元: YouTube

カラット(フォントワークス)

カラット引用元: YouTube

コメット(フォントワークス)

コメット引用元: YouTube

筑紫ANA丸ゴ(フォントワークス)

筑紫ANA丸ゴ引用元: YouTube

そう、画の印象に合わせてフォントを変えている。
0:00冒頭の「尾田栄一郎(あおかね)」は文字の丸みと、ちょっと飛び出している感じなどが、背景の雲の形にもマッチしている。そして色が濃青なのも完璧。

0:50の斜め流線が入ってる背景のシーンでは、斜体で直線ぽさのあるコメットを選んで、なおかつ背景の流線の角度に合わせて左側に配置しており、徹底して馴染ませを意識している。素晴らしい。 コメット流線背景引用元: YouTube

単純に同じ位置、サイズで表示するだけでなく、画面の一部として違和感なく溶け込ませる工夫がされていて正直驚いた。注目して見ないとフォントが違うことすら気づかないくらいマッチしている。

構成

この作品のワクワク感の源流たる構成について、最後に見ていこう。

①冒頭

冒頭0:00の海と雲が映るカット。これが日曜午前9時30分、新クールになって突然TVに流れたときのことを想像してほしい。 

引用元: YouTube

最高の冒険が始まるわけですよ。

これが制作陣の作りたかった最高の演出なのではと勝手に思っている。どういうことか詳しく見ていこう。
1カット目が映し出されてから0.5秒の間、それまでなんのテロップも表示されず、ただそこに海と雲が存在している。まるで視聴者が突然、海の上に連れ出されたかのように。
「なんの作品だ?」という思考が駆け巡ったその瞬間、音楽の入りとともに出る「尾田栄一郎」の文字。完璧なタイミングである。正直僕も記憶を消してもう一度その瞬間を見たい。

そしてカメラが近づいていき、船が見え、ルフィが見え、ONE PIECEのタイトル。王道ではあるが、王道だからこそみんな好きな演出。もうここで心鷲掴み。

②冒頭以降

冒頭以降のシーン構成をざっくりまとめるとこんな感じである(時系列オーバーラップ的なものもあるので本当にざっくり)

・エッグヘッドの探索
・未知の相手
・冒険のこれまで、これから
・同時並行的に世界で起こってること
・宿敵との戦い
・さあ行くぞ

という感じでOP単体としての起承転結に加え、ワンピースの「これまで」と「これから’がすべて表現されている。エッグヘッド編だけにとどまらない架け橋的な内容になっている。でもシンプルにOPとしての王道な演出も入っていて見ごたえがある。 視聴者がワンピースのどこを追っていても楽しめる要素がはいっており、本当に万人に向けた、それも平均値をとるのではなくすべてを網羅しに行く内容・構成なのだな思う。それでいて無理矢理感がない。

さいごに 

この記事、年初に6割くらい書いて放置してたのですが、今回黒井さんの企画にちょうどハマりそうな内容だったので一念発起してまとめ上げたという経緯があります。 黒井さん企画いただきありがとうございます!
映像を作る人間目線で、この作品のどこに感銘を受けたのかというのを、細かく書き記してみました。ストーリーに関わる小ネタなどは、もっとたくさんあるので、この作品をテープが擦り切れるまで見てほしいです。 この記事を書くにあたって、OPの制作裏話が掲載されているという「ワンピース・マガジン 018」を購入したのですが、まだ読んでないので、あとで自分なりの答え合わせとしたいと思います。この記事を読んで気になったみなさんもこちらをCHECK!
集英社―ONE PIECE magazine 特集 両翼―ゾロ・サンジ― 018
最後に、このOPを制作した石谷さん、森さんを始めとする東映アニメーションの制作陣のみなさまに最大の拍手を。

明日の記事は、Squさんです。